大阪府:石切の家 取材時の声
「リゾート感のある家を建てたい」というのが施主からの第一希望だったという。建築家は施主とともに土地探しからスタートする。リゾートというと見晴らしのいい高台、海辺や緑に囲まれた立地を考える。しかし最終的に決まったのは、背後に生駒山の森、周囲は住宅やマンションが建て込む、大阪府東部の町中の土地だった。「モルディブの海のリゾートをイメージしていたのですが、いろいろな事情で180度、違うところに来てしまいました(笑)」と施主のYさん。
藤原・室建築設計事務所の藤原慎太郎さんと室喜夫さんは「近隣は旧家も多く、将来、建て替えがあるだろうと考え、採光、風通し、プライバシーの確保など先を見越した設計を考えました。もちろん、リゾート感と密集環境をどう融合させていくか。中庭や平屋、大きな空間などのプランも提案しましたが、サンルームのような吹抜けのリビングを中央に据えることで決まりました」と語る。
玄関から直接つながる吹抜けのメインリビングは、やわらかな光が満ちていた。トップライトからの太陽光、壁に落ちる影の美しさ、タイルの床。レンガによるスクエアな外観からは想像できない、明るく開放的なリゾートが具現化されていた。
リビングを中心にキッチン、ダイニング、存在感のあるタイル貼りの広いバスルーム、2階には寝室や子ども室が回遊するように配置されている。
「開閉式のトップライトでリビングに光と風を呼び込む。そこから放射状に、各室の外壁やリビングを臨む廊下に窓とガラスウォールをこまめに取る。窓が連続するとデザイン的に美しくないので、分散の仕方には工夫をしました」と藤原・室さん。
Yさんの家づくりへのもうひとつの思いは、できる限り自然の素材、本物感のあるものを使いたいということだった。藤原・室さん曰く、「Yさんは非常に行動的です!」。自らショールームに出向いて商品を確かめ、インターネットでサンプルを取り寄せ、これを使ってほしいと藤原・室さんに提案する。施主も建築家もそれぞれ素材を吟味し、話し合い、統一した思いで家をつくるという関係性が育まれた。リビングの床素材に悩んでいたYさんに、藤原・室さんはコンフォルト2015年6月号「タイル、この愛しきもの」を手渡した。そこからのYさんの行動が早い。「すぐに数枚を取り寄せ、家族旅行も兼ねて愛知県瀬戸市の瀬戸本業窯を訪ねました。1枚1枚、手づくりで焼いているタイルのお話を聞き、その質感に魅了されリビングの床はこれだ! と思いました」。選んだのは〈多彩幾何文〉。異国風の図柄と和の味わい、手仕事による素材感は、リゾート感を増す役割を見事に果たしている。
「Yさんからはどんどんリクエストが来る。バスルームのガラスタイルもご自分で選び、手すりや引き戸のレール、キッチンやトイレの水栓などの金具も、とにかくシルバーは避けて、真鍮色にしたいと。でもそういう金具は圧倒的にシルバーなんです。もちろんYさんも探しますし、こちらもスタッフ共々、必死に探す。そのやりとりがとても楽しかったですね」と藤原・室さんは振り返る。
一方、夫人のA子さんは、家の一室でリンパエステサロンを開いている。以前の家では、お客さまが来るとリビングを大急ぎで片付けていたが、今回は玄関から直接、2階のサロンに行ける動線をリクエストした。1階のリビングで講習会なども開き、子育て世代のママたちが子どもをつれて集う。
「仕切られているようで、いないような空間。たっぷりの光と風が入る開放感に心が和みます。以前は家からの心地いい眺望がほしいと思っていましたが、ここに住んで意識しなくなりました。朝、洗濯をしながら窓から隣家の瓦屋根や緑が目に入る。それだけで十分、私にとっては愛おしい景色です」。「家庭内リゾートで完結しているような感じだよね」と智樹さんが答える。夫妻ともにインテリアへの造詣が深く、こだわりも強い。家具類や照明器具も二人が選んだものが、空間に調和し、非日常の雰囲気をつくる。
さあ、もうすぐ小学校と保育園からやんちゃ盛りの2人の息子が帰ってくる。今日は出張がちのパパもいて、近所に住む親戚も来て、お鍋だ! ゆったりとした空間に賑やかな会話が飛び交い、ドタバタも混じって。石切の家に満ちる光は、夕景へと色彩を変えていく。