日々のこと

コミュニケーションのデザイン 小さな訪問者~13年目の気付き

先日、13年前に家を建てた、西宮の家 https://aplan.jp/works/nishinomiya/の建築主さんから連絡があり、長女が大学生になり、

「一度事務所を訪問したい」

とのことで、事務所で打合せすることになった。

 

どうった経緯で家造りが進んだか、から話からはじまった。

・住んでみての感想

家に家族が返ってくる時に、リビングなどから気配が感じられ、家族がLDKのドアを開けた時に見える視線のレベル差がとても印象的

家の段差がいろいろあるが、住み慣れると全く気にならなくなった

・当初の設計の意図と、現在の住まいがどうなっているか

当初の設計では、長女と次女が子ども室を一緒に使うということだったが(設計側は将来2部屋使えるように提案したが却下)、次女の生活スタイルや性格が大きく変わり、長女は現在ご主人の書斎を使っているとのこと。

設計当初想定していなかった長男が誕生し、部屋が足りないので、長男は現在のリビングに居を構えており、皆がリビングでくつろいでいる横の一角を個室的に利用してるとのこと(不思議だが問題なくむしろ楽しんでいる)。

・建物の意外な使い方

家に帰ってあらためてどんな使い方をしていたかを、家族みんなに聞いて写真を集めているとのことで後日報告が来る予定

などなど話は尽きない。

実は、この住まい各機能ごとに、階段がある。

見た目は優しそうだが、なかなか個性的な構成になっている住まいである。

ただそれも希望を叶えるなら、この段差がむしろ必要という提案内容であった。

13年を経て、段差だらけの家で、いろいろな居場所それぞれに環境が大きく変化するのだが、個々の性格や生活スタイルに合わせて、居場所を見つけ、楽しげに住みこなしていっているのが、聞いていて面白かった。

 

長女が発見した大きな気づきは、

「見た目のデザイン面を取り上げられることが多いが、住む人達のコミュニケーションに重点をおいて設計している」

家族の関係性、家族の顔の合わせ方など、コミュニケーションが設計の意図に盛り込まれており、設計側が家族の形を建築空間としてデザインし、家族間で起こっているコミュニケーションが、建築の構成によって形作られている

「マンションや建売に住んでいたら今の家族のコミュニケーションもなかったやろうね」

家が更に大好きになって、リーダーシップを取って、過去に撮影した住まい方の様子がわかる写真や動画の収集をはじめた。

とのこと。

コミュニケーションのデザイン 敷地

コミュニケーションと建築というと、建築主の方と私達が会話を重ねていって完成する建物のことを指しているというふうに思われるかもしれない。

今考えているコミュニケーションと建築は、もっと広いイメージをするようになってきている。

建築主の方がすごく特殊な要望があり、それ故に他にはない建物ができているかというとそればかりではない。

一般的な希望や内容であっても、敷地との応答によって、建築は大きく変わってくる。

敷地外に対して対話的になったり、寡黙になったり、存在感を少なくしたり、対比的だったりと、建築物でしか出来ないコミュニケーションのようなものがある。

敷地内部でも、敷地の微妙な段差へどう建築側で応答するかで、プランのアイデアが変化していく。

建築内部では方位によって、太陽の動きが違ってくるので、光の入り方が大きく変化していく。

光が入ってくる窓も、プライバシーといった外部環境との関わりをどう応答するかによって、採光位置の取り方が変わる。

傾斜地や変形地、狭小地、旗竿敷地といった特徴のある敷地をはじめ、

郊外の画一的に見える土地も、微細な状況を観察することで、敷地の独自の特徴が見えてくるようになり、建築の可能性が年々広がってきている。

コミュニケーションのデザイン 好み

好み

建築主の方皆が、趣味があるかというと、そういったことは無い。
特徴のある希望や趣味が無くても、デザインの方向性を左右するものとして、好みというものがある。
この好みは結構デザインを考える上で重要であったりする。
例えば、白い壁が好きか、グレーの壁か好きか、黒い壁が好きかといったシンプルな好みの違いで、空間のデザインが随分と変わる。
同じ空間でも、壁の色が違うと、光の反射具合が全く違うので、最終的に達成したい明るさが同じだとすると、窓や開口部の取り方がぜんぜん違うことになる。
そういった要素は、空間には沢山あるので、挙げればきりがないくらいだ。
好みを聞いたり感じたものを提案し、リアクションとフィードバックをもらう、ということをし続ける。
建築主にとっても依頼する前に想像していたものが、そういったプロセスを経ることで新たな発見がある。
その建築は特徴がありながらも、使う人に取って自然な居心地良さになっていく。